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【イベントレポート】 BtoBスタートアップのネクストトレンド「第3回 Beyond SaaS ー産業を創るー」

    2023.04.27

    Love from Azit 編集部

    イベント概要

    第3回となるBeyond SaaS。本イベントは従来のSaaSとは違い、ソフトウェア以上の価値を提供するBtoBスタートアップ企業の代表に登壇いただき、今後の市場の発展、新たな時代の潮流を読み解く対談を実施。


    今回は小売チェーン向けのECプラットフォームを運営する株式会社10Xの代表取締役CEOの矢本さんをゲストに迎え、“エンタープライズDX事業”の極意について紹介。

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    • 矢本真丈

      株式会社10X : Founder,代表取締役CEO

    • 吉兼周優

      Azit : 代表取締役CEO

    今回はアーリーステージ期にエンタープライズ企業と提携する上で大切な事業開発、プロダクト開発、組織開発など細かな課題解決方法について語られました。

    主にPM、BizDevなどに携わる20名弱の方々が参加したオンラインイベント。

    初めてエンタープライズ企業と提携する場合、実績のないところからどのようなコミットメントを達成させていくのか、信頼構築の取り組み方や円滑に稼働できる組織形態の秘訣など詳しく話していただきました。およそ1時間弱にわたる登壇の中から要点のみを一部ピックアップしてお伝えいたします。

    事業開発について

    エンタープライズ企業との提携を始めたきっかけはなんですか?

    矢本真丈

    現在はStailer(ステイラー)という小売チェーン向けのECプラットフォームを展開するBtoB事業をやっていますが、その前はタベリーという献立アプリのBtoC事業をしていました。BtoC事業の立ち上げ当初は、ユーザーが集まっていれば金融市場からも評価される風潮があり、実質的にマネタイズが不十分でもやってこられたという内情がありました。

    ですが、果たして会社としてそれで良いのかと考える時期に差し掛かりました。本当にマネタイズはできているか、事業としてスケラビリティはあるのか、もっと本質的なことを言えば大切な顧客にとっての重要な問題が解決できるサービスになっているのかなどですね。その他にも事業の稼ぎ方も顧客の体験を毀損することのないより良い事業を作りたいという思いはずっとありました。

    そこで、小売業界の中でも一番難しいと言われている食品のネットスーパー領域の課題解決につながる事業に着目したのです。こうしたあらゆる観点で事業の発展性を考えた時にエンタープライズ企業と組むことが一番良いと思い、現在のStailerというサービスが生まれました。

    エンタープライズ企業と組むにあたって大事にしていることはなんですか?

    矢本真丈

    エンタープライズ企業側が何を実現させたくて、そこに自分たちがどのようなアプローチができるかという視点を大事にしています。10XはStailerの前にBtoC事業をしていたので、エンドユーザーの声をはじめとしたデータを直接もらうことができていました。そのため、小売の先にいるお客様が何に困っているかというニーズを詳細に拾いあげてプロダクト開発に繋げています。

    エンタープライズ企業はやはりSMBと違って契約まわりが厳しかったり、期待値調整が難しかったりすると思うのですが、大変だったことはありますか?SMBかな?と思いましたが、ご確認ください。

    矢本真丈

    過去2年ほどは本当に大変でしたね(笑)2020〜2021年、2022年の頭くらいまではその帳尻合わせをプロダクト開発においても行なっているという状況でした。

    まず、私たちスタートアップは当然ながら交渉力が低い状況です。エンタープライズ企業の方々の課題解決をどこまで請け負うのか等の期待値調整も非常に曖昧でした。なので、実際にシステムが稼働してから当初思ってもみなかった要望を受けたり、期待値の調整を行なったりといった経験もありました。

    具体的に言うとStailerは2021年からお客様アプリに加え、店舗オペレーションのためのアプリケーション開発、在庫データを推論するシステム開発、ポイント・決済システム設計なども一括で行なっていたので、当初想定した納期に対して非常に厳しい状況に…。何とかリリースはできたものの、結果的に当初は品質の低い部分もあるサービスになってしまったため、お客様からのクレームをいただくという事態も発生しました。

    この課題について今現在の矢本さんならどのように対応しますか?

    矢本真丈

    これは完全に期待値調整、というか事業開発に問題があったんですよね。まず、最初の時点で「プロダクト開発は不確実性があります」とエンタープライズ企業の方々に前提をお伝えすべきだったかなと。アジャイルの考え方や不確実性が大きい中でどのようにQCDを確保するかという方法論を顧客であるエンタープライズ企業の方と話をする必要がありました。

    どうしてもスタートアップ企業は立場上、契約を取るために許容範囲以上のコミットメントをしてしまいやすいと思います焦らず、背伸びしすぎずに。…と言いたいところですけど一周目はどうしても失敗してしまうのではないかな(笑)僕が今もう一度最初から立ち上げるとなっても背伸びしますね。リスクを取るタイミングでチャレンジしないと、事業が作れないと思うので。

    そうですよね、そうしないと事業が成立しないですよね。

    矢本真丈

    そもそも契約が取れなければ会社としても成立しないわけです。QCDに関する問題は事業が始まってさえいれば解決できる問題ではあるので。究極的な言い方をするなら事業をやらないか、事業をやった後で起こる困難を全て引き受けるかという選択肢になるのですが、それなら僕は後者をとりますね。

    エンタープライズ企業のなかでも相性の良い企業、成功した事例などあればお願いします。

    矢本真丈

    今回の対談テーマのキーワードにも「DX」とありますが、個人的にD(デジタル)は特に重要視しておらず、トランスフォーメーションに重きをおいています。この30年間日本の経済が衰退しているのも、産業変革が一部の企業でしか行なわれていないというのも要因ではないかなと思っています。

    では、変革とは何か。それは根本的な構造を変えることです。

    やはり既存の事業やオペレーションに一切の痛みなく遂行することは難しいと捉えています。教育コストをかける、未知の分野に先行投資をするといったリスクに加え、事業のポートフォリオに変革を起こせるかどうか、といった点を最初の打ち合わせではお話しさせてもらっています。今の時代ネットスーパーを参入することは難しいことではありません。ですが、単に時流だから取り入れる…のではなく、ネットスーパーという事業を今後10年、20年先も会社のコアにしていくという意思があるかどうかというのは私たちがお付き合いする上でも大切にしています。

    社内の体制についてはどうでしょうか?

    矢本真丈

    そうですね、事業が成長する限り常に何かしらの体制不足は否めません。パートナーが増えるたびに要望も大きくなり、増えていくので社内のケイパビリティを増やすには人員を増やさなくてはならないです。かといって求人募集を始めても採用・育成期間も含めて最低半年はかかる。このように会社規模が大きくなるほど、実質の社内体制が追いつかずギャップが生まれる。CEOはそのギャップをどう解消していくか、そして自身の取捨選択に応じて得られなかった成果を受け止める覚悟というのも時には必要なのではないでしょうか。

    プロダクト開発について

    事業立ち上げ当初のプロダクトの完成度はどの程度のものでしたか?

    矢本真丈

    実は私たちはStailerを初めて一社目と二社目で売っているプロダクトが変わっています。一社目で提供したプロダクトはエンドユーザー向けが使いやすいネットスーパーアプリでした。しかし、いざ取引を始めて見えてきたのは、エンドユーザーが快適に使えるアプリ開発をしただけでは顧客の本当の課題解決につながりにくいという点。たとえば、ネットスーパーをやったことのない人に向けた取り組みやネットスーパー分野の事業を2倍に増やしたいという顧客の要望があった場合、エンドユーザー向けのアプリ開発だけで解決できる範囲はせいぜい1〜2%くらいです。

    このことが一社めですでに見えていたので、二社め以降は、店舗のオペレーションや商品データなどにも入り込みより本質的な課題解決に対応するプロダクト開発に臨みました。

    なので、一社めの時点で完成度の高いプロダクトを作るというよりは、業界に認知してもらうための旗揚げとなるプロダクト開発になりましたね。

    その顧客課題の本質が見えていたら、一社目から今のようなプロダクトを作っていましたか?

    矢本真丈

    いや〜、わからないですけれど再現性はあまりないかなと。

    立ち上げ当初のチームメンバーは10人でしたが、今のプロダクトを10人で動かすとなると開発に3年と4ヶ月は要しますね(笑)

    事業として成立するギリギリのプロダクト、かつ顧客が欲しいと思ってくれるタイミングと提供できるタイミング、そして効果がしっかり現れて一定の品質が保たれるという、さまざまな掛け合わせが実現できる範囲からのスタートが望ましいですよね。

    いずれにしても何か新しい事業をやろうと思うなら知ってもらわなければ始まりません。大事なのは、参入したい産業にどんなアプローチができて、その後どのような発展性を遂げられるのかという未来図を描くことでしょうか。

    確かに我々Azitも当初配送サービスを自前で行なっていましたね。その後に出てくる課題解決に向けて体制を変えていかないとと思い現状に至りますが、それでも自前で配送サービスを行なっていたという経験がエンタープライズの方々にとって大きな価値を生み出したところがありますね。

    矢本真丈

    そう考えると、ほとんどの成長しているSaaS企業って事業としての登り方に共通する部分はありますよね。アプローチをかけたい業種の実際の課題はどこにあるのかを、その事業に携わりながら理解を深めていくことが大切なのかもしれません。

    Slerとして個社に向けたプロダクト開発に注力をする一方、自社の資産となるプロダクトの開発もしなくてはならない。そのなかでどのように開発優先度をつけていますか?

    矢本真丈

    Sler企業にとって個社の成功は自社の成功でもあります。そのため、一社ずつ細かいニーズを拾った方が良い場合もあるでしょう。その一方でプロダクト開発段階でもROIを考えなくてはなりません。10Xではドメインエキスパートが取引をしている各社のニーズを広い、対応できる抽象水準を定めます。さらにアナリストが自社のGMVの成長予測やインプットメトリクス・アウトプットメトリクスなどを試算し、自社内での共通認識をすり合わせています。可能な限り、どのラインでどのようなプロダクトを作れば良いのかという仕様書を作成し、社内で共通認識が持てるように設計を組んでいますね。これがなかなか難しいところです。

    組織体制について

    エンタープライズ企業と提携を行う上で、組織拡大の面ではどのような壁を感じましたか?

    矢本真丈

    事業のフェーズが進むと必要になる組織や体制も拡大しなくてはいけないものの、現実問題すぐには解消することは難しいです。そこで生じるギャップが、社員の疲労や不平不満という深刻な問題を引き起こしてしまう。多くのスタートアップ企業の組織拡大における最初の壁ではないでしょうか。ただ、これはもう壁というか起きるべくして起きた問題だなと捉えています。

    具体的にはどういうフェーズで問題が生じましたか?

    矢本真丈

    提携企業が一社から一気に複数社に増えたタイミングです。五、六社くらいの企業のサービス、プロダクト開発、リリースなどを一貫しなくてはいけない。当初の10Xでは案件を担当している人のオーナーシップで仕事を分担していく自由度の高い形式をとっていたため、結果的に一人の人に大きな裁量負担がかかっていたんです。なので、プロジェクトの数が大きくなっていくと同時に社内の組織体制も多様性のあるものに切り替えていく作業は必要でした。

    組織図の形はどのようなものを採用しましたか?事業フェーズによって変化があれば変えたタイミングも教えてください。

    矢本真丈

    組織の形は事業のコアが決まると自然と決まっていくものだと考えています。10XはSlerとしてプラットフォームを作っているので、プロダクトを作るだけが仕事ではありません。かつあらゆるパートナー、スタッフ、エンドユーザーの問題を解決しなくてはならないので、その優先順位をもとに考えると社内の組織図は必然的にマトリクス型しかないなと。

    マトリクス組織って難易度が高いと言われていますが、その組織づくりの基盤となった参考モデルはありますか?

    矢本真丈

    トヨタですね。トヨタは昔からマトリクス組織を採用していて、以前からその在り方に共感をしていました。そのほかにもマトリクス型を採用している身近な経営者の方や社長秘書を勤めていた方などにヒアリングをして、体制づくりに参考しました。加えて、社内に生産性をあげる優秀な人員が揃っていたことがマトリクス型採用の決め手となりました。

    さいごに

    スタートアップ期から段階を踏んで登っていく上での課題なども赤裸々に語っていただきました。今後エンタープライズ企業とパートナー提携をしたいという起業家、経営者のみなさんの参考になる話も多かったのではないでしょうか。


    今後も魅力的な登壇者をお迎えしていく予定のBeyond SaaSをお楽しみに!


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