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コーディング未経験のPdMが、プロダクトデモの「当日アップデート」を実現した話

  • #プロダクト

2025.12.15

Torahiko Sasaki

はじめに

「午前中の打ち合わせで出たフィードバック、午後にはデモに反映できますか?」
従来の開発プロセスでは、この問いに「はい」と答えられる人は少ないでしょう。しかし、AI駆動開発ツール「Claude Code」を活用することで、コーディング経験がほぼない私でも、これを日常的に実現できるようになりました。
本記事では、株式会社Azitの新規プロダクト「ForecastX」のデモ開発において、PdMである私がClaude Codeを用いてどのようにAI駆動開発を実践したか、その具体的なプロセスと成果をお伝えします。

筆者について

株式会社AzitでPdM(プロダクトマネージャー)を務める佐々木寅彦です。物流・サプライチェーン領域のAIソリューション開発に携わっています。
重要な前提として、私にはコーディング経験がほぼありません。HTMLを少し触った程度で、本格的なプログラミングは未経験。そんな私が、React + TypeScriptで構築された本格的なデモアプリケーションを開発・運用することになりました。

プロジェクトの背景

ForecastXとは

ForecastXは、Azitが開発中の需給予測プラットフォームです。従来の需要予測システムは導入費用が数千万円規模、開発期間も半年以上かかることが一般的でした。ForecastXは、低価格かつ最短1ヶ月での導入を目指しています。

なぜPdMがデモ開発を行うことになったのか

新規プロダクトの立ち上げ期において、最も重要なのは「顧客が本当に求めているものは何か」を素早く検証することです。しかし、従来のプロセスでは:

  1. PdMが顧客ヒアリングで要件を整理
  2. エンジニアに開発を依頼
  3. 数週間〜数ヶ月後にデモが完成
  4. 顧客に見せてフィードバックを得る
  5. 再度エンジニアに修正を依頼...

このサイクルでは、1回のフィードバックループに数週間かかることも珍しくありません。
そこで私は、PdM自身がデモ開発を行うというアプローチを取ることにしました。顧客と直接対話している人間が、その場で得た知見をすぐにプロダクトに反映できれば、圧倒的なスピードで検証サイクルを回せるはずだと考えたのです。

プロジェクト概要 - 何を作ったのか

今回開発したのは、ForecastXを中心としたサプライチェーン管理の統合プラットフォームのデモです。

  • 規模:
    • 6つのプロダクト: 需要予測、在庫計画、販売計画、補充計画、生産計画、発注計画
    • 各プロダクト6つの機能: 計画、分析、アラート、ダッシュボード、カスタムレポート、データ管理/連携
    • 合計36ページ: 6プロダクト × 6機能
  • 技術スタック:
    • React + TypeScript(Claude Codeからの提案)
    • サンプルデータもすべてClaude Codeが生成
  • 開発期間: 約2週間(その後は必要に応じて日次単位で修正開発)

【実際に開発したデモ画面のスクリーンショット(需要予測ダッシュボード)】

Claude Codeとの出会い

最初の一歩

Claude Codeを使い始めた当初、正直なところ半信半疑でした。「本当にコードが書けない人間でも使えるのか?」という疑問がありました。
しかし、実際に使ってみると、その印象は大きく変わりました。Claude Codeは単にコードを生成するだけでなく、私の意図を理解し、適切な実装方針を提案してくれるのです。
例えば、「需要予測のグラフを表示したい」と伝えると、単にコードを出力するのではなく:

  • どのようなライブラリを使うべきか
  • データ構造はどうあるべきか
  • ユーザビリティの観点から何を考慮すべきか

といった点まで含めて提案してくれました。

初期構築から運用フェーズへ

最初のデモ構築には約2週間かかりました。React + TypeScriptの環境構築から、基本的なUIコンポーネントの作成、データの可視化機能の実装まで、一通りの機能を揃えるのにそれなりの時間が必要でした。
しかし、本当の価値はここからでした。

「当日アップデート」という新常識

最短数時間での修正サイクル

初期構築後、私の開発スタイルは劇的に変化しました。顧客やステークホルダーからフィードバックをもらったら、最短数時間、遅くても1営業日以内で修正を完了できるようになったのです。
具体的なシーンを挙げると:
午前の打ち合わせ→午後には反映 顧客との午前中のミーティングで「この画面にアラート機能があると便利」という声をいただく。午後にはClaude Codeでアラート機能を実装することができる。
Slackでのフィードバック→当日対応 社内からSlackで「グラフの色をもう少し見やすくしてほしい」という依頼が来る。その日のうちにUIを調整し、「確認お願いします」と返信できる。
このスピード感は、周囲からも驚かれることが多いです。「え、もう対応できたの?」「こんな短時間でPDCAを回して高速でデモ改修できるんですね」といった反応をいただきます。

エンプラ顧客への提案を変えた「個社別カスタマイズ」

AI駆動開発の真価が発揮されたのは、エンタープライズ顧客への提案時でした。
物流・製造業の顧客は、それぞれ固有のニーズを持っています。ある企業は製品の保管期限管理を重視し、別の企業は特殊なアラート機能を求める。汎用的なデモでは、こうした個別のニーズに応えることができません。
従来であれば、個社ごとにデモをカスタマイズするには相応の開発工数が必要でした。しかし、Claude Codeを活用することで、私はFDE(Forward Deployed Engineer)的な動きを1人で実現できるようになりました。
FDE的な動きとは:

  1. 顧客の現場に入り込み、ヒアリングを行う
  2. 要件を整理し、プロダクトへの落とし込みを検討する
  3. 短期間でデモをカスタマイズし、すぐに顧客に見せる

特に3番目のステップが重要です。従来は「汎用的なデモをお見せして、導入時にカスタマイズします」という説明になりがちでしたが、私は各社向けにFDE業務を行った後の、最適化されたプロダクトをデモとして共有できるようになりました。
具体的なカスタマイズ例:

  • 実際の拠点名・商品名の反映: 顧客が実際に使用している拠点名(例:「東京倉庫」「大阪倉庫」)や商品名をデモに反映。汎用的な「拠点A」「商品1」ではなく、顧客にとってリアリティのある画面を見せられる
  • 業務フローに合わせた機能追加: 保管期限の表示、特定条件でのアラート発火など、各社の業務フローに合わせた機能を追加
  • UIの調整: 顧客が重視する情報を目立つ位置に配置するなど、見せ方の最適化

これにより、提案時に「これは御社向けにカスタマイズしたデモです」と言えるようになりました。汎用デモを見せて「実際の導入時にはカスタマイズします」と説明するのとは、顧客へのインパクトがまったく違います。

開発プロセスの実際

日常的なワークフロー

現在の私の開発ワークフローは以下のようになっています:

  1. 要件の整理
    • 顧客フィードバック、社内からの要望を収集
    • 優先度を判断し、対応する項目を決定
  2. Claude Codeへの指示
    • 実現したいことを自然言語で説明
    • 必要に応じて画面のスクリーンショットや参考資料を共有
  3. コードの生成と適用
    • Claude Codeが生成したコードを確認
    • 意図通りの実装になっているかをプレビューで確認
  4. 動作確認とフィードバック
    • 実際にデモを動かして確認
    • 問題があればClaude Codeに修正を依頼
  5. デプロイ
    • GitHubへのプッシュ
    • 本番環境への反映

このサイクルを1日に何度も回すことで、高速なイテレーションを実現しています。

学んだこと:AI駆動開発のコツ

約2ヶ月間の開発を通じて、いくつかのコツを学びました:
1. 具体的に伝える:「かっこいいダッシュボードを作って」ではなく、「売上推移を折れ線グラフで表示し、前年同期比を並べて表示したい」、などと具体的に伝える。
2. 段階的に進める:一度に大きな変更を求めるのではなく、小さな単位で確認しながら進める。
3. エラーを恐れない:エラーが出ても、そのメッセージをClaude Codeに伝えれば、原因と解決策を提示してくれる。
4. 既存コードの理解を深める:Claude Codeに「このファイルの構造を説明して」と聞くことで、自分が書いていないコードも理解できるようになる。
5. 定期的なコードの見直し: Claude Codeでは、ほぼコードを見ずに開発することも可能な一方で、不要なコードの削除漏れなどが起きても気づきずらいため、定期的に「コードの見直し(リファクタリング)」を指示することで、開発を続けやすい環境を維持することができる。

成果と効果

定量的な成果

  • 初期デモ構築: 約2週間
  • 機能追加・修正: 最短数時間〜1営業日
  • 開発した画面数: 6プロダクト × 複数画面
  • エンジニア工数: ほぼゼロ(レビューのみ)

定性的な効果

1. 顧客との対話の質が向上:「次回の打ち合わせまでに反映します」ではなく「明日には反映します」と言えることで、顧客との信頼関係が深まった。
2. 仮説検証のスピードアップ:「この機能は本当に必要か?」という問いに対して、実際に作って見せることで素早く検証できるようになった。
3. PdMとしての視野の拡大:技術的な制約や実装の難易度を肌で感じることで、より現実的な要件定義ができるようになった。
4. エンジニアリソースの有効活用:デモレベルの開発はPdMが担当し、エンジニアは本番プロダクトの開発に集中できる体制を構築できた。

おわりに

「コーディング未経験のPdMがデモ開発を行う」というのは、少し前までは現実的ではありませんでした。しかし、Claude Codeのようなツールの登場により、技術とビジネスの境界は確実に薄くなっています。
特に重要なのは、「2週間で作れる」ことではなく、「当日アップデートできる」ことです。この圧倒的なスピード感があるからこそ、顧客との対話を通じて本当に価値のあるプロダクトを作り上げることができます。
もちろん、AI駆動開発は万能ではありません。複雑なビジネスロジックや、高度なパフォーマンス最適化が必要な場面では、専門のエンジニアの力が不可欠です。しかし、プロダクトの初期検証やデモ開発においては、PdMが自ら手を動かすことで得られる価値は計り知れません。
この記事が、同じようにAI駆動開発に興味を持っている方、あるいは「技術がわからないから...」と躊躇している非エンジニアの方の参考になれば幸いです。

株式会社Azitについて

Azitは「日本のインフラを新しい時代へと紡ぐ」をミッションに、物流・サプライチェーン領域に特化したAIソリューションを提供しています。需給予測プラットフォーム「ForecastX」、AI配車プラットフォーム「DeliveryX」などを通じて、サプライチェーン全体の最適化を目指しています。

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