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「数字を作る」だけでは終わらない。Azitが「AIエージェント」でサプライチェーンの意思決定を変える理由
2026.03.18
Love from Azit 編集部

Azitの「ForecastX」に、新たに「AIエージェント」機能が追加されました。今回は、顧客折衝の最前線に立つCROの須藤がインタビュイーとなり、CEO 吉兼に導入背景と既存ツールとの違い、AIエージェントの真価について語ってもらいました。
意思決定のレイヤーに、AIが入り込む
ーー よろしくお願いします。早速ですが、「ForecastX」に新たにAIエージェントの機能が追加されました。まず、導入の背景を教えてください。
僕たちが取り組んでいるサプライチェーン・プランニングという領域はこれまで、「今後何個売れるのか」「在庫を何個用意すべきか」といった数字を、アルゴリズムや機械学習・統計分析を活用しSaaSという形で課題解決してきました。この数字をもとに人間が現場で修正・アップデートしていくのが、従来のSaaSのあり方でした。
事業計画もそうですが、数字を作る仕事は一見「数字ができたら完成」だと思われがちですが、実際は「予測が外れた」「在庫が余った、あるいは足りなかった」という結果まで含めて追わなくてはなりません。結局のところ、数字と現状を照らし合わせて「どう判断し、どう意思決定するか」というところに業務は収束します。「100個足りないから100個発注しよう」という意思決定が行われて初めて、本当の価値が届けられるわけです。
生成AIやAIエージェントがなかった時代は、予測精度を高めることが限界で、意思決定という最上流のレイヤーには踏み込めていませんでした。その意思決定自体を効率化できるようになったことが、AIエージェントを導入しようと決めた大きな要因です。
ーー AIのコストという観点では、どう考えていますか?
オペレーション寄りのレイヤーに比べ、意思決定のレイヤーは金額が大きく動く世界です。例えば「1つの判断を変えるだけで300万円浮く」ようなこともあるイメージですね。だからこそ、良いモデルを使い学習コストをかけたとしても、十分に投資回収できると判断しました。
また、サプライチェーンは扱う商材数が数百から、多い会社では数万にも及びます。これを毎日・毎週人間がチェックするのは限界があります。これまでは、例えば「月1回、皆で集まって意思決定をしましょう」という形だったのが、AIエージェントによって365日24時間、すべての商材に対して意思決定し続けることができるようになります。これまで物理的に不可能だったことまで最適化できる。ビジネス的なインパクトと市場の課題感が揃ったことも導入の要因になりました。

熟練者の知見を、AIの力でスケールさせる
ーー この機能は、これまでのSCM(サプライチェーン・マネジメント)ツールの中でも非常にユニークだと感じています。もともと僕たちが課題視していた「Excelによる属人化」を変えていく取り組みですが、長年その部署にいた熟練の方が培ってきた知見を、AIが再現してくれる。「熟練の方々の知見がAIに引き継がれていく」イメージですよね。
まさにそうですね。人の判断のログをAIが学習する、いわば「10人いる精鋭部隊の知見をスケールさせていく」ような機能です。
厳密に言うと、AIが学習するのは計画や修正のログ、実績データ、そして「AIの提案に対して人間が何を承認・却下し、どうフィードバックしたか」という内容などです。さらにアドオンとして、月1回の定例会議の議事録などを読み込ませれば「最新の会社の方針ではこういう意思決定をすることになった」という内容を反映させた支援ができます。AIの学習ソースをどう設計するかによって、改善の余地はかなりありますね。社内会議も情報ソースとして活用できると考えています。
ーー クライアントの方々が描くAIのイメージに近いですよね。様々な情報を取り込んで進化していく。お客様の反応を見ていても、そこの期待感とマッチしている感じがします。
「数字ができあがる」から一歩進んで「意思決定まで支援してくれる」となると、よりAIらしさが増しますよね。製造業では特に「AIに投資しなければならない」という危機感もあり、AI担当役員や専用予算が設けられる中で、まだ他社がやっていないこのアプローチは非常に重要になると考えています。
ーー DXから一歩進んで、今はみんなが「AIを入れたい」と考えていますからね。一方で、複数の人が計画を修正できるとなると「誰の計画が正しかったのか」という議論も生まれそうです。そのあたりはどうでしょうか?
機能の観点から説明すると、僕たちのプラットフォームは機械学習や統計分析によって、数学的・データサイエンス的に「これが正しいだろう」という予測や在庫量を算出し、それを人間がチェックします。「急にコロナが蔓延してきた」といった突発的な事象に対しては、人間が判断を加える必要があるからです。
これを続けることで「予測・計画・実績」という3つのデータが蓄積されていきます。例えば実績が急に増減した場合、これまでは人間が手動で修正フローを回していました。「半導体の関税が変わったから、これまでの学習内容はリセットしてやり直し」というのが従来のツールでしたが、僕たちのプロダクトでは、AIが「関税が5%上がると今後の販売や在庫にどう影響するか」を学習し、新しい計画案を自ら作ります。
在庫を増やす必要がある場合も「外から発注する」のか「東京の倉庫から大阪に移動させる」のかといった選択肢ごとに、財務インパクトやコスト効率を判断したうえで推奨案をUI上に提示します。ユーザーはA・B・Cの中から選ぶ。AIの推奨がAであっても、あえてBを選ぶこともあるでしょう。「承認」か「却下」かを選ぶだけで、それが計画全体に即座に反映されます。
また、僕たちのお客様はエンタープライズが中心なので、意思決定の根拠(ログ)が非常に重要です。「需要トレンドがどれくらい増えているか」「現在の在庫と今後の補充の必要性」といったデータを示しながら、「A案なら120万円、B案なら95万円の利益改善」という形でログが残るため、意思決定の説明責任を果たせるようになっています。承認・却下の履歴もAIが学習し、使い続けることで「この担当者はこういう判断をする人だ」という属人性も蓄積されていきます。
ーー そこまで学習できるんですね。
人間の判断のログなので、例えば「Aさんの予測は当たるけれど、Bさんの予測は外れる」ということも起こり得ます。最初は両方を学習しますが、僕たちは実績データを持っているので、最終的に「どちらの判断が正解に近かったか」が分かります。社内ではBさんの意見が重視されていたとしても、実績としてAさんの方が当たっていれば、次第にAさんの意思決定が重視されるように学習させることも可能です。ファクトに基づいた学習ができるわけです。
ーー 忖度のない、実績ベースの判断をしてくれるのは、AIらしくて良いですね。
お客様からは「AIなら忖度のない意見を出してくれる」という期待も感じます。人間にはどうしても様々な事情や忖度が入ってしまいますが、目標値に向かって「本来こうすべき」という提案を忖度なしに出してくれることは大きな価値ですよね。
逆に言えば、AIはロジックで説明できないことを適当に言わなくなってきています。1年ほど前まではハルシネーション(もっともらしい嘘)を懸念する声もありましたが、AIの急速な進化によって、エンタープライズ企業からも信頼を置いてもらえるようになってきたと感じています。
ーー アカウントごとにしっかり情報が蓄積されていけば、導入後のコミュニケーションもより深まりますよね。現場のリアルな意思決定に入り込んでいるこの形は、非常に喜ばれる機能だと思います。

「SaaSネイティブ」と「AIネイティブ」の差とは
ーー 既存のSCP(サプライチェーン・プランニング)ツールとは、何が違うのでしょうか?
大手ベンダーもパッケージを持っていますが、「SaaSネイティブなプラットフォームにAIを後付けした」形が多いと考えています。一方僕たちは「AIネイティブなプラットフォームをゼロから作った」点が大きな違いです。
大手は既存の巨大プロジェクトを抱えており、そこを効率化するためにAIを活用しています。目的が「精度を上げること」に集中していて、過去の計画やSNSの動向を分析して予測精度を100%に近づけようとする方向性です。
一方、僕たちは「精度はこれ以上上げなくてもいい」という、ある意味で極端なポジションを取ることができます。なぜかと言うと、精度はどこまで追求しても100%にはならないからです。天気予報と一緒で、100%当たるものにはどうしてもならないですからね。外れた時にどういう意思決定をすれば、財務インパクトを埋められるか。つまり、外れた際のアクションを学習しようというのが、僕たちのコンセプトです。
イノベーションのジレンマを、スタートアップだから超えられる
ーー 単純な疑問ですが、なぜ「AIで意思決定」ではなく「人間が意思決定し、承認フローを回す」方がいいと考えたのでしょうか?
ゼロベースでAIネイティブなプロダクトを考えたからだと思います。既存ビジネスがあると、KPIを変えるのは難しい。100の既存ビジネスがあれば、その効率を上げる方向に投資したくなります。ForecastXは昨年立ち上げたばかりだからこそ「AIエージェントの時代なら、こういう意思決定構造になるはずだ」という逆算でプロダクトを設計できました。
既存の会社が同じアプローチを取るには、既存の資産を大きく捨てる決断が必要になります。大手企業の立場でその意思決定を社内で通すのは、ハードルが高いはずです。
ーー いわゆる「イノベーションのジレンマ」ですね。
そうですね。SaaSとして「情報の精度を高める支援」をするか、AIを活用し「意思決定プロセス自体をAIとの共同作業に変える」か。この違いは、非常に大きいと考えています。
これまでのSaaSは「意思決定を支援するための情報提供」をしていたと思いますが、僕たちは「意思決定プロセス自体を変える」ことで、月に10件しかできなかった判断を1000件走らせられるようにします。この「100倍(100X)」の効率化こそが、決定的な差だと思っています。
ーー アセスメントについても聞かせてください。
僕たちは導入の最初に、ROIがどれくらい出るかの診断をパッケージとして提供しています。今後はAIエージェントの機能もこの診断に追加したいと考えています。そうすると、「精度が何パーセント上がるからROIが向上します」という説明ではなく、「月に500件の意思決定が自動化・支援されることで、これだけのインパクトが生まれます」という、より強力な提案ができるようになります。
ーー 他の企業はそういうアセスメントができないのでしょうか?
できないわけではありませんが、ビジネスプロセスが違います。既存の大手ベンダーやSIerは、サプライチェーンだけでなく基幹システム全体をセットで売っていることが多いと思います。年間数億・数十億という巨大プロジェクトを回している彼らにとって、数百万円程度の単発アセスメントをわざわざ売るインセンティブは、営業担当者にとって働きにくいと思うんですよね。
一方、僕たちのようなスタートアップは、新規クライアントにどんどん入り込んでいく必要があります。最初のアセスメント自体が大きな収益にならなくても、それによってSaaSが導入されれば継続的な収益につながるため、挑戦しやすいんですよね。
ーー ちょうど先日もアセスメントの話をした際、「これなら稟議を通しやすい」という声がありました。「AIを導入するのはいいけど、誰が責任を取るのか」と反発が起きがちですが、アセスメントがあれば話を進めやすくなります。ここから型ができてくれば、プロダクトはさらに広まっていくと感じています。
「総合格闘技」としてのAIエージェント
ーー 今後、AIエージェントはどのような進化をしていく想定ですか?
まだ学習させていく段階で「誰のことを学習してどう実績化するか」という実装はこれからです。
もう一つのチャレンジは「マルチプロダクト」での展開です。需要計画・在庫計画・生産計画…現在はそれぞれのデータは分かれていますが、最終的にはこれらを統括する「上位のAIエージェント」を作り、全体をオーケストレーションしたいと考えています。
ただ、そこには「AIと組織のフィット」という課題があります。エンタープライズは組織が大きく部門が分かれているため、「オーケストレーションは不要、部門ごとのエージェントでいい」という話になりがちです。ガバナンスに合わせてどう提供していくかが次のチャレンジです。機能的な進化だけでなく、社会実装としての進化が必要で、一筋縄ではいかないでしょうね。
今は人間が承認する形をとっていますが、3年使い続ければ「9割方、AIの言う通りで大丈夫だ」という信頼が蓄積され、自動運転のように「人間が承認するライン」を徐々に変えていけるはずです。AI開発だけでなく、セールス・CS・プロフェッショナルサービスが全チーム合わさって取り組む「総合格闘技」だと思っています。完成されたものを売るわけではないというところが、このフェーズのスタートアップの面白さでもあると思っています。
ーー 最後に、最近「SaaS is dead」という話題が注目を集めています。AIの台頭によってSaaSの価値が問われる中で、AzitはAIを真正面から取り入れている。このあたりをどう考えていますか?
「SaaS is dead」への反論として考えると面白いですよね。ToDo管理のようなフロント中心のアプリケーションはAIに置き換えられるかもしれませんが、僕たちのように「ワークフローの中で学習するための構造」を明確に持っているプロダクトは別だと考えています。
Excelで運用している会社がほとんどの中で、データの整備から自動化し、それをAIに活用させる基盤を作っている。将来的にSaaSは3種類くらいに分かれると思っています。「AIに吸収されるSaaS」「AIを動かすための養分となるSaaS」、そして「AIエージェントが使うためのSaaS」。僕たちが目指すのはこの3つ目。AIエージェントを内包・活用する側として、進化を続けたいと考えています。

聞き手:須藤信一朗 編集:坂井華子
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